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なぜナメクジがヘビを倒せるのか、これには一応、定説があります。
ヘビ・カエル・ナメクジの三敵《さんかたき》[三竦《さんすく》み]の初出は中国の思想書『関尹子《かんいんし》』[著者とされる関尹子は周代の人物だが、この書の成立は唐代か宋代か]です。
関尹子文始真経 - 原文テキスト
新日本古典籍総合データベース
【原文】
蝍蛆食蛇 蛇食蛙 蛙食蝍蛆 互相食也 聖人之言亦然 言有無之弊 又言非有非無之弊 又言去非有非無之弊 言之如引鋸然 唯善聖者 不留一言
【書き下し文】
蝍蛆《むかで》は蛇を食い、蛇は蛙を食い、蛙は蝍蛆を食い、互《たがい》に相《あい》食す也。
聖人の言《げん》亦《また》然《しか》り、有無之弊《うむのへい》を言い、又《また》非有非無《ひうひむ》之弊を言い、又非有非無を去るの弊を言う。
之《これ》を言うは鋸《のこぎり》を引く如《ごと》く然り、唯《ただ》善《よ》き聖者は一言《いちごん》を留めず。
【現代語訳】
ムカデはヘビを食べ、ヘビはカエルを食べ、カエルはムカデを食べるというように、互いに食べ合うものである。
聖人の言葉もこのようなものであり、有無[存在と非存在]の悪い所を言い、また、有でなく無でないこと[中道]の悪い所を言い、また、有でなく無でないことを除くことの悪い所を言う。
素晴らしい聖人の言葉は、ギザギザの刃がたくさんついているノコギリを引くように多彩であり、一つの言葉に留まらないものである。
つまり、元々は「ヘビ・カエル・ムカデ」だったのが、日本にはムカデがナメクジと間違って伝わったというのが定説です。
ちなみに、ムカデがヘビを食べる事は、中国の思想書『荘子《そうじ》』[中国戦国時代成立]に書かれています。
莊子 : 內篇 : 齊物論 - 中國哲學書電子化計劃
【原文】
民食芻豢 麋鹿食薦 蝍且甘帶 鴟鴉耆鼠 四者孰知正味
【書き下し文】
民は芻豢《すうかん》を食い、麋鹿《びろく》は薦《こも》を食い、蝍且《むかで》は帯《へび》を甘《うま》しとし、鴟鴉《しあ》は鼠を耆《たしな》む。
四者《ししゃ》孰《いず》れか正味《しょうみ》を知らん。
【現代語訳】
人間は家畜を食べ、鹿は草を食べ、ムカデはヘビを旨いと食べ、トビやカラス[鳥]はネズミを好んで食べる。
この四者のうち、どれが本当の味を知っていると言えようか。[絶対的なものはないということ]
ムカデがヘビを食べるのはどうもありえないように思えますが、そのように信じられていたようですね。
ましてや、ナメクジがヘビを食べる事はありえないので、この話ではつじつまを合わせ、ナメクジの毒でヘビがやられるということになっているのでしょう。
とはいえ、ナメクジにヘビを殺す毒があるとも思えませんがね。
間違いが間違いを重ねて、どうにもこうにも、分けが分かんないことになってしまったんでしょう。
「三竦み」を検索すると良く出て来るこの絵を見ると分かるように、
拳会角力図会 2巻 - 国立国会図書館デジタルコレクション
ナメクジ[ナメクジリ]は漢字では「蚰蜒」と書かれていたようです。
つまり、「蝍蛆《むかで》」と「蚰蜒《なめくじ》」、良く似た字面なので、単純に間違ったんでしょうね。
結局、一本の足はナメクジをつかんで浮かして、残りの三本の足で飛んでいたから、三本足のように見えただけで、普通の四本足のカエルだったと言うわけです。
『金玉ねぢぶくさ』巻七-二
[元禄十七(一七〇四)年刊、章花堂作]
※北海道大学附属図書館所蔵 (CC BY-SA) 適時改変して使用
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